マグロと言えば、私たち日本人にとっては万葉の昔からなじみの深い魚です。とくにその刺身は日本食文化の最高の傑作と言ってもいいでしょう。しかし、食べるときの姿は見ることがあっても、その割に全体像を知っているひとは少ないようです。たとえば最新の研究では、マグロには頭のはたらきを良くしたり、悪玉コレステロールを排除したりする成分があると言うことまで分かってきています。

本(黒)まぐろの全体像です。大きいものでは3m、体重400kg以上になることもあります。過去最高値は平成10年1月に1尾900万円と言うすごいやつがありました。しかし平成13年1月、東京築地の市場で常識はづれの値がつきました。いくらとおもいますか?本体200kg 2千2十万円です。西暦2001年にちなんだお祭り気分の入札だろうと思われます。これは1尾あたりでも、kgあたりでも史上最高値です。100gあたり1万円以上で、頭、骨など省いた身揚がりは約50%の100kgです。正味可食部分は100gあたり2万円以上と言う事になります。握り寿司にすると、1かんが大とろで3千円、中とろで2千円、赤身で千円おおよそそのくらいでしょう。ただしこれは原価です。少なくともおすし屋さんでは2倍〜3倍にはなると思われます。しかしいくら仕入れ値が高くともそんな値段ではとても売れません。多分数件の仲買で落札したものと思われますが1軒あたり百万円近い損、それを仕入れた魚屋、すし屋、料理屋などが各数万円以上の損は覚悟で仕入れたものでしょう。結局儲かったのはその鮪を釣った漁師さん、築地魚市場、それにその鮪を食べたお客さんだけではないでしょうか。


おおとろ                       赤身 

1年間で日本人が食べるマグロは65万トン、このうち刺身が85% 55万トンです。これはマグロ1尾の量だから、頭 えら 内臓 骨 皮 血合いを取り去った正味は25万トンです。すしねた1切れは10から15g、仮に10gとすると250億切れになります。


中とろ                        背とろ

マグロは量的にはイワシ、タラ類には及びませんが、金額では2位のイカ類を大きく引き離してダントツの1位です。動物性タンパク源と比較しても、豚肉に続いて2位、牛肉や鶏肉より多いのだ。
       「塩マグロ 取り巻いている かかあたち」
       「煮なさるか 焼きなさるかと マグロ売り」
マグロは上記の川柳にあるように江戸時代後半にはタイやヒラメなど白身の魚にくらべ鮮度落ちが早いため、下等な魚とされていた。文化、文政(1817年前後)のころ江戸に握りすしが登場する。このときすしねたに使われたのがマグロ生食のスタートとなる。当時マグロは鮮度落ちを防ぐため醤油に漬け込まれた「づけ」を握っていた。この「づけ」が評判となりやがてマグロを刺身で食べる習慣へとつながっていく。

 
高タンパク、低カロリーのヘルシーな赤身


マグロはヘルシーな食品と言われる。まず鉄分がある。牛肉の2倍、豚、鶏肉の4倍。次にEPA(エイコサペンタエン酸)、これは悪玉コレステロール(LDL)を減らし、善玉コレステロール(HDL)を高めるほか、血液中のコレステロールや脂肪の蓄積を予防する。いわゆる血液がきれいになるのである。昔から漁村に長生きの人が多く、エスキモーは心臓病や脳梗塞にかかりにくいと言われるが、これはEPAが大きく貢献していると考えられる。またDHA(ドコサヘキサエン酸)が注目をあびている。イギリスに「Fish is brain food」と言う言葉があるように、魚は頭に良いと信じられてきた。DHAは動物の脳の主要構成物質で、脳以外では水産物だけにしか含まれていない成分だ。DHAが頭脳に好影響を与えることは動物実験であきらかになっている。ただし筋肉のようにDHAを食べればたべるほど頭脳が強化されていくということではなく、頭脳本来の機能を正常に発揮させるのである。
脳が発達段階を終えた成人にはDHAを多く食べてもいまより頭がよくなるわけではありません。これから脳の組織を作っていこうとする赤ちゃん、すこしづつ退化していく老人には積極的な貢献を果たすだろう。
いまDHAのアルツハイマー型老人性痴呆症への効果も研究されている。実際に効果があるかどうかは先の話だが、もし予想どうりとすれば日本人だけでなく人類にとって画期的なことである。
ともあれ世界唯一のマグロのマーケットの消費者であるわれわれもマグロに対する認識を少し見直す必要がありそうだ。「マグロならトロ」と言う時代はなくなりつつあるのだ。「トロ」にばっかりこだわりつづけることが、結局は高すぎて手が出ないと言う状態をまねいてしまう。
               「マグロの本当のうまさは赤身にある」
プロはみんなこう言う。味に関してはこれが真実だ。いくら食べても飽きがこない赤身が刺身の本領である。トロはたまに、少したべてこそトロなのである。たくさん、しょっちゅうたべるものではありません。

                              渡辺文雄氏著「マグロをまるごと味あう本」参照